山崎響のセンチメンタル暴力ブログ

物語を書いたり、書評したり、あれこれ思ったり。 演劇、映画、小説、色々見たこと、聞いたこと、そんな事を書いてます。 気軽にコメント下さいねっ!

ふわふわのダブルロールじゃないとちょっと。
風になびいて届けマカロン。

グラビア

アサ子日記 七話 個装社の梶原さん

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「あ~、どうもぉ、はじめましてぇ、えー、え、本日インタビューさせていただく、個装社の梶原と、こちら撮影を担当する斎藤と申しますぅ。ええ、え、今日は個人的に大好きなアサ子さんにインタビュー出来るということで、若干テンションが上がっちゃってるんですけども、ええ、え、んふふふふ、ええ、どうぞよろしくお願いしますぅ」
 
 「あ、はい。どうぞよろしくお願いします」
 
「これぇ~、あの、アサ子さんに、お土産なんですが、ええ」
 
「あぁ!これ!もしかして!」
 
「え!ご存知です!?今スイーツ女子の間で話題の!」
 
「ですよね!?」
 
「ドラ屋のどら焼きですぅ!」
 
「わぁ~!思ってたのと違~うっ!え?あ、どら焼き?どら焼きぃ?なんで?あ、いや、あぁ、ですよね。あの!いや、好きです!あたし!どら焼き!好きっす!最高っす!どら焼きしか食わねぇっす!!」
 
「え、好きです?ほんとに?あれ。なんで私がこんな複雑な気持ちになるんだろう」
 
「えっと、あ、食っていいっすか!あたし、どら焼き好きなんで!パねぇ!マジパねぇ!」
 
「え、あ、あぁ…ど、どうぞ…」
 
 
 
 
 
てっきりカスタードプリンだと
確信していたあたしは
どら焼きだったということに
分かり易くがっかりしてしまった。
この失礼を取り返そうと
 
うめぇーっ うんめぇ、まじうめぇ!

どら焼きを二つ一気に頬張って、
 
さらに三つめに手をかけたところで
 
 
「やめて!見苦しい!や、いえ、ええ、あの、大丈夫ですから!ええ、そこまでしていただかなくて大丈夫ですから!気持ち伝わりましたから!ええ、ええ」
 
と、
梶原さんにとめられた。
っていうか、
スイーツ女子って何?
そんな名前の女子たちに人気なのがどら焼き?
おかしくね?
今、ジャストナウ、現在、
人気なのがどら焼きなの?
何周してどら焼きに帰ってきたの?
どーせ後で食べるのに。
どら焼き。
おばちゃんになったら食べるのに。
どら焼き。
 
 
 
 
「はい。では、えっとですね。今、ノリにノってるアサ子さんですがぁ、ええ、先日、弊社の雑誌『アン・ナン』のアンケートで、今、最もイカれてるお笑い芸人部門でダントツの一位を獲得されたんですが!いかがでしょうか?」
 
「は。え。なんすか?」
 
「ですから、ええ、今最もイカれてるお笑い芸人部門で、一位だったんですよアサ子さん!」
 
「はい。え?感想ですか?言うんですか?感想」
 
「ええ、是非是非」
 
「ぶっ殺したいです」
 
「は。え。なんすか?」
 
「え。は?ぶっ殺したいです」
 
「え、ええ、え?なんで?」
 
「え、逆になんで?」
 
「一位ですよ?」
 
「はい」
 
「お笑い芸人を押しのけての受賞ですよ!?快挙!今まで一人も居ないんですよ?そんな人」
 
「あ、ああ、あの、いいですか。これ。全然欲しくないです。なんていうか、さっきのどら焼き並に全然欲しくないし嬉しくない」
 
「え?嫌味言った?ええ、え?なんです?怒ってます?アサ子さん」
 
「イカれてるんですよね?あたし。あの、え?あたし間違ってるのかな。あなた一番頭がイカれてます!って言われて、「やったぁー!」ってなります?え、やっぱ間違ってるのかな。これ。「やったぁー!」ってなった方がいいですか?これ。いや、これ、あの、これでやったぁー!ってなったら、本当にイカれてるっていうか、頭、故障しちゃってるって事になりませんか?」
 
「あの、ええ、そうですね、ええ、あの、確認が一点、よろしいです?」
 
「はい」
 
「…イカれてないって思ってます?ご自分のこと」
 
「は。え?」
 
「あ~、そうなんですね。あ~、はいはい、わっかりましたぁ、あ~そっかそっか。じゃあ腹立ちますよねぇ」
 
「やだ。この感じ何?やだやだ。やめて。なんか嫌!この流れ、駄目な気がする!」
 
「話、進めちゃっていいですかね?一応、一位取られたということで、花束、持ってきてるので受け取っていただくついでに、写真、一いただきますね」
 
「やだ!受け取れない!受け取ったら駄目!嫌です!なんか嫌です!だってほら、めでたくない!」
 
「そんなことおっしゃらずに、ええ、ね?ほら、薔薇ですよ?こんなに沢山、薔薇、ね?薔薇」
 
「いや、薔薇、嬉しくない薔薇!」
 
「とりあえずほら、これ持ってください!これ!これこれこれ!」
 
「痛い!トゲ!薔薇!トゲ!」
 
「なんでよ!薔薇ですよ!ええ、薔薇!こんなに!気持ちですから!気持ち!ね?薔薇の気持ち!!」
 
 
 
無理矢理持たされて、
写真を撮られた。
軽くレイプされた気分。
っていうか、この人、
おかしい。
絶対頭がおかしい。この女。
イカれてるの、
あたしじゃない気がする。
 
 
 
「え~っと。アサ子さんに喜んで受け取ってもらって、嬉しいです。私。用意した甲斐がありましたぁ。ええ、ええ」 



おおおお。
これを喜んで受け取った事にしたよ。この女。
凄い。
イカれてる。
わああ。
勝てない。これ絶対勝てない。



「で、ですね。あの~、読者からの質問なんですが、ええ、今、大変お忙しいと思うんですが、休日はアサ子さんは何をされて過ごしているんですか?」

「え?あぁ、休日ですか、えっと、ショッピングとかですねぇ」

「ショッピング??? えっと。 ん~。 えーっと。呼吸ってされます?」

「は?え?」

「呼吸です。呼吸。されますよね?普通」

「え?あ、はい・・・します・・・ねぇ」

「ですよねぇ!ええ、ええ。じゃあ、あの、休日もします?呼吸」

「いや、え?あぁ、はい。してます・・・」

「えええええ!そうなんですかぁ!休日にすることは『呼吸』!?やっぱ違いますよねぇアサ子さんは!すごーい!さすが今最もイカれてる芸人!」

「は?ん。なんだ?なにそれ」

「では、次の読者からの質問です。ええ」

「は。何。これどうなるんですか。ちょっと待って下さい」

「えーっとですね。アサ子さんは完璧なプロポーションですが、そのスタイルを維持する為に何かしてることはありますか?ということなんですが。何か特別な事してますかね?」

「え?なんて?ちょっとさっきのが解決してないんですけど・・・」

「えっと、何か と・く・べ・つ な事、してます?」 (と・く・べ・つ の一音ずつ首を斜めに振りながら目をひんむいてアサ子の顔に近づける)

「え、いや、そこまで特別な事は何も、あの、普通のグラビアの子なら誰でもするような事を・・・」

「ええええええ!!何もしていない!?嘘ぉ!?さっすが!さっすうううううがアサ子さんですね!!天然で、え?天然でそのスタイル!?うわー。すごーい。すごいうぜぇ~」

「ちょっと、本当にちょっと!嫌だ!絶対に損する!あたし!なにこれ!やだ!ねぇ!梶原さん!嫌だ!これ!」

「おい」






声の方を向くと、
今日は別々だったはずの
マネージャーがドアの横に立っていた。



「あ!なんであんたがここに!?」

「おい、おい、おい、梶原ぁぁぁぁ。ハメたな?この私を。なぁ」

「はっ!なんのこと?」

「同じ日に個装社から二件仕事が入るのは珍らしいと思っていたら、梶原ぁ、なぁ?お前かぁ。なぁ?」

「何?何言ってんの」

「アサ子から私をひっぺがしたかったんだなぁ、なぁ?そうだろ。おい」

「だから何が言いたいの?話が見えないけど」

「アサ子を、潰したかったのか?どうしたかったんだ?私が居たら邪魔だよねぇ?梶原ぁ。お前、まだ私の事恨んでるんだねぇ。へぇ。で、アサ子を潰しに掛かったんだぁ・・・へぇ~」

「はぁ?何?妄想ならよそでやってよ」

「アサ子ぉ!なんか変な事言われた!?」

「え、っていうか、なんか全部変だった・・・」

「ぶっ殺すぞ梶原ぁ!」

「証拠はあんのか!ええええええ!?おい!お前のタレント、アサ子つったっけ?そいつ頭おかしいんだろ?信用できんのかよ!ええ?そんな奴が言う事をよぉ!私は変なことなんかして無ぇよ!証拠はあんのかよぉ!」

「証拠ぉ?? 無ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよぉ! カスぅ!いらねーんだよそんな物ぁ!アサ子が!アサ子がぁ!」




嫌がってんでしょーーーがっ!!




そう言って
マネージャーは
梶原さんを殴った。
アニメ?
ってくらい吹っ飛んだ梶原さんは、
斎藤さんの機材をなぎ倒した。
それにキレた斎藤さんは梶原さんを地味に蹴った。
その日の事は個装社の雑誌には載らなかったけれど、
週刊近況にリークされたらしく、
暴力マネージャーとして書かれ、
三ヶ月の謹慎をした。

そして、
謹慎が明けて、
二人で仕事を再開しだしたら、
危険なタレントとマネージャーとして
有名ですよと、
カオリちゃんがそっと教えてくれた。


アサ子日記 六話 秋田さんの撮影

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「ふぉおおおおおおお!!イイッ!すっごくイイよぉ!アサ子ちゃあああああん!!」
 
「きょえええ!!そう来る!?アサ子ちゃああああん!イイッ!イイよぉ!」
 
「ちょ、ちょちょっと!待って!あ、ちょっと待ってアサ子ちゃああああん!」
 
「良すぎぃ!良すぎるよぉおおおおお!!もっと!そう!むぉっと!!むぅぅっと!!」
 
「イエス!オゥ イエ!こねて!もっと!もっと!こねてぇ!そこ!そうそこ!」
 
「イっちゃう!イっちゃうよアサ子ちゃああああん!!」
 
「イっていい?ねぇイっていいのぉ!?イっちゃう!撮っちゃう!イヤ!やっぱイっちゃうううう!!」
 
「はい、一回ネガチェンジ入りまーす」
 
 
 
 
 
毎回、
この人の撮影は騒がしい。
独り言がパねぇ。
いつもはビキニで撮影だから
嫌な気分がしたけれど、
今日はゴルフウェア広告の撮影で、
服を着ててもこの調子という事が解って、
凄い発見だった。
 
ただ、こういう撮り方しか出来ない人なんだ。
この人。
良かった。
ただの変人で。
 
 
 
 
「ねぇ、俺、寝そべっちゃう!いい?いいよね?横になっちゃうよおおお!ふぉおおおおう!」
 
「嗚呼すっごいよ。アサ子ちゃんすっごい。下から見たらもっと凄い!」
 
「あ!今の!今のヤバい!ツボだよそこ!先っぽ!先っぽだよアサ子ちゃああああん!」
 
「おいごらぁ!光量足らねぇんだよ!クソが!クソクソクソクソ!!クソアシスタント!!ちゃんと当てろよぉ!クズ!」
 
「はあああん!!アサ子ちゅぅぅん!!そんなことまでしちゃうの!?アサ子ちゅん、俺またイっちゃいそうになってるよ!」
 
「光ぃ!!暗ぇんだよ!てめぇのせいでよぉ!ちゃんとしろよ!クソクソクソクソアシスタンクソ!!殺すぞ!」
 
「ああ!アサ子ちゃーん!イク!またイっちゃうよおおおお!!」
 
「ネガチェンジ入りまぁす。あと機材とセッティングも変えるんで、ちょっと休んでで下さい」
 
 
 
 
 
 
「だいぶ慣れたねアサ子」
 
「あ、マネージャー。いつ来たの?」
 
「さっきよ。秋田さんが寝そべってイっちゃうとこくらいかな」
 
「そうなんだぁ」
 
「平気だった?」
 
「うん。色々発見があったし大丈夫」
 
「どんな?」
 
「秋田さんって、ああいうセクハラっぽい事言ってるけど、そういうんじゃなく、言っちゃう人なんだってこととか」
 
「あぁ、秋田さん街撮りでギャラリーがいてもああだからね。」
 
「凄いね。癖っていうか、なんだろうね」
 
「あ、けど、秋田さん撮影中ずっとタってるらしいからね。あそこ」
 
「え。どこ?」
 
「おぴんぽん」
 
「嘘でしょ?」
 
「私、前にエツ子から聞いたんだけど、え、気づかなかった?」
 
「いや、撮られてる時はレンズしか見てないし」
 
「そうなんだ」
 
「ていうか、なんでタつんだろ」
 
「あんだけテンション上がってんだから、血圧も上がってんじゃないの。わかんないけど」
 
「興奮してるってこと?」
 
「けどあの人、男の人撮る時もタってるらしいからね。興奮とかそういうのじゃないのかもね」
 
「えええ。なんか、変人なのか変態なのかはっきりして欲しい。そういうの」
 
「変人と変態のハーフなんだよ。きっと」
 
「クオリティ高ぇ~」
 
「にしても秋田さんってアシスタントに異常にきついと思わない?」
 
「悪口だもんね。言ってることが。アシスタンクソって言ってたよさっき。あたし撮られてて、ビビる時あるし」
 
「切り替えが早いっていうか、なんていうの?二重人格が同時進行してるっていうか」
 
「あれ、じゃあさ、変な話、アシスタントさんにキレてる時もタってるのかな」
 
「どうだろ」
 
「タちながらキレる人って面白くない?っていうか、見たことないそんな人、っていうか見たいっ」
 
「え」
 
「キレた時に、タってるかどうか確認しよっかな」
 
「どうやって?」
 
「え、ズボンの前のとこ見ればわかるよね?きっと」
 
「ああ、そっか」
 



「うおおおらぁ!ボケ!ボケ!ボケカス!ネガの替えが無ぇだああああ!?」
 
「すびばせんっ!すびばせんっ!!」

「どおおおっすんだえええ!!おおおお!?」

「すびばせん!!」

「俺のお楽しみの時間どおおしてくれんだええ!!おい!」

「か、か、買ってきます!!」

「走れええ!」




怒鳴り声がしたから、
秋田さんがアシスタントにキレてる間、
ずっと股間を見ていた。
最初すっごく膨らんでいた股間は、
秋田さんが怒鳴る度に
少しずつ小さくなっていった。

あれ?
どういうこと?



「ねぇ、マネージャー、見た?」

「見た」

「無くなったよ。膨らみ」

「無くなったね。膨らみ」

「不思議ー。凄く不思議ー」

「イっちゃたのかしら」

「え、やだ、汚い。っていうか怖い」

「秋田さんならやりかねない気がするけど」

「あんなに怒鳴りながら出てたってこと?」

「仁王像の射精って感じ」

「なにそれ。わかんない」

「阿吽の射精」

「だからわかんないって。それ」





「おおおおい!無かったじゃねえええよ!おい!」

「ずびばせん!すびばせん!」

「なぁ!おい!で、なんだこりゃあ!おい!」

「ネガ無かったんで・・・」

「で、バカチョン買ってきたのか。てめぇ」

「はい」

「なめてるだろ。撮れりゃなんでもいいってわけじゃねぇんだよ!ボケ!スナップ写真撮ってるわけじゃねーんだぞ!!こんなんじゃ、楽しめねぇだろ。毛穴撮れねぇだろ!」

「毛穴…っすか…?」

「そう毛穴だろ!!毛穴は写るんですじゃぁ、写らないんです!!ってかバカ!!ボケが!!そういうこと言ってんだろうが!毛穴撮れねぇと楽しくねぇだろ!!楽しくねぇと勃起できねぇだろうが!!」 

「勃っ… いや、はい、あの、はい・・・」

「おい。こんなので勃起できるかって言ってんだよ!おい」

「は?」

「出来ねぇだろ?お前なら出来るのか?出来ねぇだろ。そういうことを言ってんだよ!」







「え、どういうこと?」

「いや、わかんない」

「マネージャー、秋田さんって何?」

「え、何って、カメラマンさんでしょ」

「じゃ、何しに来た人?」

「そりゃ写真を撮りに来た人でしょ」

「じゃあ、なんで勃起出来ないって怒ってんの?」

「それはわかんないけど、あれであの人、賞とかたくさん取ってんのよ?ほんとに有名なのよ?なんていうの?変わってるっていうか、奇才。そう、奇才っていうのかしらね。なんか」

「えええー。また奇才~?しばらくいいよ~そういうの。っていうかマネージャーさ、奇才とかなんかそういうのに弱くない?訳わかんなくても奇才とか言われると納得しちゃうタイプだよね

「だって、ワケ分かんないけど、賞とか結果が出ちゃってんだから、しょうがないじゃない」

「ねぇ、見てアレ」

「え、どれ?」

「怒鳴る度に今度はどんどん膨らんでいってるよ・・・」

「あ、あ~、あ~、あ~あ~、あらららら、うわうわ、うわわ。みるみる膨らんでいくじゃない」

「ねぇ、あたしなんか不思議すぎて具合悪くなってきちゃった」

「私はちょっと楽しい」

「嘘でしょ~」

「なんかさ、男の人っていちいちあんなになって、間抜けよね。おっかしい。ね?」

「いや、いちいちなんないから。普通」

「え~、だって、知り合いの子供、五歳の男の子なんだけど、おしっこしたくなるとタつって言ってたわよ?あと、ほら、朝起きたらなってるやつとか、あるじゃん色々。間抜けな現象が色々」

「えー、それは自然じゃん。仕方ないじゃん。秋田さんみたいに、変なスイッチじゃなくない?」

「一緒だよ、一緒」

「雑くない?男の人に対しての見方が雑過ぎだよマネージャー」

「いいのいいの。男なんか細かく見たって、たいして違わないんだから」

「そうなの?」

「そうよ。男なんて基本、ちんちんがでかい奴が偉いって思い込んでんだから」

「え、なんの話?」

「だからでっかいビルを建てたがるのは男なのよ。」

「だからなんの話って」

「っていうかデカいからなんだっつーの。痛ぇだけだわあんなの。デカさにかまけたセックスしやがって」

「ちょっとなんの話!?」

「アゴはずれるかと思ったわあのバカ男」

 




「あ、ちょっといいですか、アサ子さんとマネージャーさん。あのですね、今、ネガの方が無くなっちゃいしてですね。あの、写真の方はあらかた撮れてはいるので、問題はないとは思うんですが、あの、秋田の方からですね、あの、急遽用意したインスタントカメラがあるんですがですね、それで撮りたいと、どうしても撮りたいと言ってるんですが、あの、よろしいですかね?」



本当に背中を丸めて小さく申しわけ無さそうに
説明をするアシスタントさんの話を聞きながら、

あいつ、
まだ勃起し足りねぇのか?

と、思った。
ネガが無くなるという緊急事態、
こんな状況で、
また勃起しようとしている秋田さん。
自分の欲望に忠実な人って、
それだけで恐ろしい。

けど、
なぜか、
お前なんかに負けねぇ!
と心に火がついた。




「ひゃっはぁー!びんびん来てるよ!びんびん!びんびんすっごいよおおお」

「もっと!もっと!来て!あたしにもちょうだいっ!あなたのそれちょうだい!」

「ふぉおおお!最っ高だよアサ子ちゃああん!」

「秋田さんもすっごいわあああ!カッチカチやねん!!」

「どう?これはどう?いい?ねぇいい??ちょっと入って上んとこどう!?ああああああ、ねぇ!どうなの!!」

「ごりごりしてるぅ!!もっと撮って!そして勃起してええ!秋田さあああん!」

「するよおおおおjがhfがおdふぃうgpふぁdlkがl:gj:あえおjふぉおおお!!!!」






この時のあたし達の光景は
マネージャー曰く、
『色々通り越して神々しかった』
らしい。


本気を見た。
とか、
やけくその向こう。
とか、
高め合う変態。
とか、
散々言われた。


けれど、
秋田さんは、
このインスタントカメラで撮った写真で
なんか世界的な凄い賞を取ったらしく、
あたしも
その被写体として、
なんだか世界中からインタビューを受けた。
そして、
世界中からオファーが来たけれど、
あたしは
世界からの仕事は成功できなかった。
マネージャーは
その結果を受けて、

「変態は変態に撮られてなんぼね」

という言葉を残し、
グラビアからその他全ての写真の仕事は
秋田さん以外には撮らせないという
謎な方針をかためてしまった。
結果、
あたしは
秋田さんのおちんぴんに関しては
ご飯を食べながら見たって平気になった。
ちょっと
汚れた大人になった気がした。

アサ子日記 五話 鬼才の映画撮影 


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「俺、ゲイだから」

「え」

「だから・・・大丈夫だから」

「え」

「大丈夫だから、大丈夫、大丈夫・・・」

「ん・・・んん・・・」



あたしは、
流石にあたしは、
この脚本おかしい。
と気づいていた。
ゲイに初キスを奪われる処女、なつき。
という設定。
どうも腑に落ちない。
違和感だらけのこの感じ。
台本を渡された時、
マネージャーは、
「やっぱ奇才は違うね」
とかのんきに言っていたけど、
あたし、
この後、
この違和感を抱えたまま
セックスシーンあるんですけど。
どうよ?自分。
胸、出せる?
この感じで。



「ああ・・・なつき・・・母さんも・・・したい・・・」



木陰で見ているのが、
なつきの実の母で、
あたしたち親子は、
後々、
このゲイを取り合う。

[本気で三往復ビンタ(お互いに)] 

と、
ト書きされた修羅場シーンとかある。

そして、

このゲイはあたしたち親子を
なんだかんだそれぞれ抱いて、
2人からの板挟みと、
後悔の念と、
自分の性癖という
完全な自業自得の
トライアングルの中で悩み、
性同一性障害でもないのに、
なぜか
一大決心のすえ、
性転換をしようと決める。

が、

行った先のトルコで、
トルコ人の男に強姦され、
思いがけず、
女として悦んでしまったこの元ゲイは
葛藤の末、
手術後すぐに、
殺虫剤を飲んで自殺を試みる。

しかし、

そこは病院の中なので、
当然助かるんだけど、
そこで、
この元ゲイは、
謎に、
いきなり、
神の存在を確信して、
神に与えられた命の大切さを痛感。
すぐに病院から抜け出し、
教会に行き洗礼を受け、
キリスト教に改宗。
というどう考えたって不要なイベントを経て、
エンディング。

そして、
スタッフロールが終わった後に、
あたしたち親子が2人、
裸でベッドに居て、
レズ疑惑をチラつかせて、
この映画は終わる。
っつー、
そういう、
予定。
そういう、
脚本。




「あああ!!お腹いたぁぁぁぁいっ!痛い!痛い!死んじゃう!痛くて死んじゃう!」

「はい、カットでーす。どうしましたぁ?アサ子さーん」

「お腹がいたーーーーーいっ!」

「了解でーっす。じゃあ、腹痛休憩入りまーす。演者の皆さん30分休んでくださーい」


「なにあの子、いきなり」
「お腹痛いって子供じゃないんだから」
「新人のくせに」
「調子乗ってんじゃないの」
「しょうがないしょうがない」
「緊張じゃない?」
「あの子、頭おかしいって噂よ?」
「ほんとにおかしいのかな」



「なに!?どうしたのアサ子!?」

「やりたくない」

「は?」

「この映画、やりたくない」

「ええええー。なんで~?」

「意味がわかんない」

「なんの!?」

「ぜんぶ」

「ぜんぶ。って」

「だから、ぜんぶ。1から10まで。頭から爪先まで。春から冬まで。ぜんぶ!」

「春から冬って。だから何が嫌なの?」

「っていうか、これで何が嫌じゃないって言うの!?何が分かるの!?これの!何!どこ!」

「感動する話じゃないのアサ子」

「どこ?どのへん?」

「どの辺っていうか、企画書にだって、命と愛の魂の物語りって書いてあったじゃない」

「おかしい!マネージャーおかしい!」

「あのね、アサ子。これはチャンスなのよ?今、ノリにノってる奇才、近藤 夢監督の映画なのよ?アサ子の方こそそういうのわかってるの?」

「わかんねぇよ。ボケ。カス。奇才って言ってりゃ色々ごまかせると思ってるだけじゃん。なに?いったいなに?なぜゲイが処女にキスするよ?ああ?言ってみ?おい」

「うわ~。なんでブチギレてんのアサ子」

「いいから言えって。なぜだ。なぜゲイが処女を狙う」

「そこは、ほら、ねえ?アレよ。アレ。愛よ」

「愛ぃぃ?おいブス。ペチャパイ。メガネブス。愛って言ってりゃあ大人しくなると思ったか。おい」

「っていうか、なぜ私にガンギレてんのかっていう・・・」

「じゃあ、愛ってなんだ。説明どうぞ」

「ラヴよ。LOVE」

「わぁ、発音良くない?ってぶっ殺すぞマネージャー。下唇噛んでんじゃねーぞ。留学生かてめぇ。筆記体みたいな発音しやがって。なに迷いなく「ラブよ」とか言ってんの。イっちゃてんのか頭」

「いや、あの、ちょっと待って。いくらなんでもキレ過ぎじゃない?今後ギクシャクしちゃうくらいのキレ方よ?それ」

「うるせぇハゲ。あたしを働かせてーんだろ?言えよ。ゲイがキスする理由、そして、この親子に親子丼かます理由。言ってみろや。無茶苦茶だぞ?こいつこの後性転換すんだぞ?なんだこいつ。薬中か?なぁ?」

「アサ子・・・私、ハゲてない・・・」

「じゃあ、デベソ。ゲロ。片親。五反田。なんだっていいんだ んなこたぁ」

「片親じゃないし・・・五反田は住所だし・・・」

「かぁーっ ぺッ!はぁ?なに」

「チンピラ!あんたそれチンピラになってる!」

「言え。聞かせろ。納得できるように。おい、俺ぁ脱ぐんだぞ?これで。脱げるか?これで」

「お腹、痛くないの?」

「治った」

「そっか。良かった。病気とか大事じゃなくて・・・無事だったんだね・・・じゃっ、撮影、がんばろっか!」

「イケると思った?その手口で」

「少し。だって、アサ子、単純だから」

「ふ~。分かった。マネージャーじゃ話にならないね。監督呼んできて」

「・・・なん、ですか?」

「あ、監督!居たんですか!?」

「・・・たった今、気になって見に来ました。怒鳴ってたので・・・」

「監督。聞いていいですか?」

「・・・なんですか?」

「これ、なんでゲイが処女にキスするんですか?」

「・・・なぜ、でしょうね・・・人間というものは、時に予想も出来ないことをするものです・・・」

「は?」

「それは・・・彼にしか解らないことではないでしょうか・・・」

「は?」

「解っていただけますね?これで」

「全然。え、なに?じゃあ、このゲイが親子丼かます理由はなんですか?」

「それは・・・コンプレックス。かな・・・悲しいよね・・・そういうの」

「ん?あれ?なんすか?つまり?」

「時に人は、思いとは別の何かに突き動かされるんですね・・・」

「なに。別のなによ。それを言ってくださいよ」

「これは・・・感覚的な話なんですよ・・・送り手と受け手の・・・」

「なんだろう。えーっ。なんだろう。イラつく」

「感じて下さい。この彼の心を、揺れを。台本から浮かび上がって来る真の姿を・・・」

「だから!言えよ!それを言えって!言葉にしろって!解るように説明してってば!」

「・・・解っていただけ」

「けない。全然いただけないです。なんすか、まじで。からかってんすか?」

「・・・残念です」

「ストレスが凄い。あたし今、ストレスが凄い。どうしようマネージャー。なにか殴りたい!」

「アサ子。耐えて!だって相手は、今、話題の近藤監督なのよ!?なんせ、奇才なのよ!」

「だから奇才ってなに!ただ単に変ってことじゃなくて!?っていうか近藤 夢ってコンドームじゃん。ダジャレ?オシャレ?なに?良いと思ってつけてんの?で、奇才?は。じゃね?」

「・・・こんどう、ゆめです。あくまでも、ゆめですから・・・」

「そういうのいいから。絶対コンドームだから。っていうか、何?さっきからピンと来ない話ばっかで、何一つ解んないだけど、それってあたしのせい?違うくね?逆にさっきの説明で解るって言う奴がいたら嘘つきだよ。ぜったい。絶対解らない。解ったフリだよぜったい。あたし、フリなんか出来ない!だって、脱ぐんだから。そんななんとなくで出来ない!」

「・・・けれど、物語りの上で必要性があるから・・・」

「無い!絶対に無い!ゲイが処女にキスする必要もないし、親子丼する必要も、性転換も、自殺も全部必要ない!仮にあったとしても、この映画自体に意味は無い!なんかあれでしょ?芸術性とかそういう感じにすればオッケーみたいな。実は本当に意味が無いから、みんなびっくりして意味を探しちゃう。みたいな。インチキ!なんであたしがインチキの片棒を担いで乳首出さなきゃいけないんだ!絶対にやだ!あたしの乳首が出るのはここじゃない!」

「・・・寂しい人ですね・・・」

「お前だ!寂しいのは!あたしは寂しくない!こんなパニック映画に出るほど寂しくはない!っていうかどう!?みなさんどうですか!?この話、理解してんすか!?普通に、他の監督がこの脚本持ってきたら、出演するんすか!?」

「え」
「なにあの子ヒステリー?」
「近藤監督に逆らってるよ・・・」
「バカだなぁ、あいつ終わったな」
「出るに決まってるじゃん」
「おっぱいくらい素直に出せばいいのよ・・・」
「グラビアあがりのくせに」

「ちょっといいですか!アサ子!私が間違ってた!降りよう!なんだこいつら。グラビアあがりってなんだ!くせにってなんですか!くせにって!なめられるような仕事を今までやってきて無いんで!こっちは!そしてあんた!おっぱいくらい出せだぁ?お前のおっぱいなんかに誰が金払うっつーんだ!見せる価値すら無いくせにアサ子の事を言うな!アサ子のおっぱいは金になるんだ!価値があるんだ!私だって耐えてたんだ!わけわかんねーな~この台本って思ってたんだ!けど、共演する奴らもクソ、脚本もクソだったら、ウチのタレントを出す意味なんかあるかぁ!」

「マネージャー・・・」

「帰るよ!アサ子!」

「焼肉食べたい!」

「おう!」





結局、
頭のおかしいグラビアあがり
というレッテルが
映画界の中であたしにがっつりと貼られてしまった。
けれど、
母親役だった
大井さおりさんだけは
「いつかあんたと共演したい」
と言ってくれた。

そして、
この映画
「フィフィーキュキュの全部」
は、
カオリちゃんがあたしの代わりに出演して、
そこそこヒットした。


アサ子日記 三話 映画撮影(後編) 





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「へ、へぇ。っていうかカオリちゃんのマネージャーってそんな事言うんだ。あたし言われたこと無いけどなぁ。ね?マネージャー言わないよね、そういうの」

「だって、放っておいても日常会話でアサ子が潰していくじゃないの」

「え?あたし?」

「ほらぁ!アサ子さんだってやってるんじゃないですか、やっぱり」

「え?やだ。うそ。あたし潰してるの?」

「そうよ。っていうか全員。ウチにいたグラビア全員」

「うわぁ~。アサ子さんエグっ!」

「まじで?うそでしょ?あたしのせいで辞めたの?みんな?え、だって、エッちゃんとか実家の農業手伝うから。とか言ってたよ?」

「エツ子は、今、インドで自分探ししてるわよ。あんたの一言のせいで」

「エグゥ~。アサ子さん凄いじゃないですかぁ。ていうか、日本人がインドで何を探せるっていうんですかね。ウケる。その人」

「えっ!だからメールしても返事来ないの?やだぁ」

「アサ子やめてあげてよ。エツ子、あんたからのメールが怖いって精神安定剤とか飲んでたんだから」

「えー!なんて送ってたんですか?アサ子さん!」

「え、普通なんだけどな・・・グラビアアイドルって人格いらないよね。とか、笑っておっぱい寄せる以外に何ができるの?とか、あとアドバイスとか?ヤンジャンのグラビアでエッちゃんの目が腐ってたよ。とか」

「エツ子可哀想に・・・」

「うわぁ。そんなのメールしてたんですか。アサ子さん」

「え、駄目だった?」

「っていうか、カオリちゃんはこういうの平気そうよね」

「えー。なんか色々あり過ぎてそういう嫌がらせ。いちいち相手してらんないじゃないですか。アタシ、他のグラビアが全員死ねば自動でアタシがトップ。っていうそういう考えなんで。敵が何言ってきてもね。って感じじゃないですかぁ」

「カオリちゃんって、人?」

「え?アサ子?」

「え?やだぁ。人ですよ。人、人。アサ子さんには負けますよ。えー、けどなんか見る目変わりましたアタシ。アサ子さんて凄いんですね。やっぱ」




キラキラした目、
艶々した肌であたしの手を握るカオリちゃん。
人の皮をかぶったカオリちゃん。
なのに、
あたし、
その子に
たった今、
尊敬されちゃった。
なにこれ。
あたし、
この子みたいに悪に溢れていないのに。
けど、
ということは、
あたしこの子にやっつけられずに済みそう?
あ、これって。
仲良くなっとけば安心ってこと?





「だから、一番先にやっつけなきゃ」





ん?
なんか言ったか?今。
カオリちゃんの顔、笑ってる。
けど、
なにこれ。
あ!
鬼っ!
鬼が笑ってる!
良くないっ!
鬼が笑って良いことがあるはずない!
助けて!助けて!
喰われるんだ!
あたしこの鬼にスープにされて喰われるんだ!
けど、それって何スープ?
鬼って何スープ飲むの?

「トマト系?和風?
 それかビシソワーズみたいなドロドロ系?
 一体、どれっ!!」





「え」

「え?」

「なんですか」

「なにが?」

「どれっ!!っていきなり叫ぶから」

「叫んでないよ」

「まじですか?アサ子さん・・・」

「え。まじだけど?なんで?」

「嘘でしょ?」

「アサ子ぉ、また叫んでたよ。今」

「あ、そうなの?あ~、へへ。ごめんねカオリちゃん。叫んだみたいあたし」

「あ・・・え、いえ、あの大丈夫です。っていうか、なんかすいませんでした!」

「ん?なにが?」

「アサ子さーん!ちょっと監督が呼んでるんでこっちにいいですか!」

「あ、はーい!カオリちゃんごめんね。あたしちょっと行ってくるから」

「あはい。どうぞ・・・」

「カオリちゃん?アサ子のマネージャーとして一つ言っていい?」

「え、あ、はい。あの、ていうか、アサ子さんってヤバい人ですか?あの、頭っていうか」

「んー。どうだろ。っていうか、カオリちゃん?」

「はい」

「二番目でいいでしょ」

「え」

「お前のポジション」

「あ」

「ありがと」

「いえ・・・」

「ちょっと、アサ子ぉー!私も行くから待ってちょっとー」






結局、
スク水のシーンは権田さんが拒否して、
あんなに言ってたカオリちゃんがすぐに折れたから
メイド服で歩くことになった。
っていうかカオリちゃんが
この短時間で凄い痩せた気がする。
大丈夫?って声を掛けたら「ひぃ!」って言われた。
具合でも悪いのかもしれない。 
けれど、
そう、
あの娘は鬼だから。
やっつけるとか言われたから、
用心しなくちゃいけない。
マネージャーに気を付けようねって言ったら、
いいわよ別に。
笑顔だったから
なんか安心した。

アサ子日記 三話 映画撮影(前編)


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「ではご主人様ぁ、一緒にいっきますよ~っ??」

「あ、はい」

 「せーのっ ラ~ヴラ~ヴ ずきゅ~んっ  美味しくなぁ~~れっ☆」

「はい…」

「愛のおまじないで美味しくなったコーヒーをめしあがれッ きゅんきゅんっ」

「あ、そうですか。では、いただきます」

「・・・え。…あの、一つ聞いていいですか?」

「どうぞ」

「あの、ご主人様って、もしかして普通の人ですか?」

「は?と、言うと」

「えっと、一般女性と金銭のやり取り無しでまともに目を見て会話が出来たり、建て前上であれなんであれ、自分上位の位置を確保せずにフラットな状態で対人関係が構築出来るような人ですか?という意味です」

「えーと、よく分かりませんが、彼女ならいます」

「きゃあああっ!!普通!普通の人がいるぅぅっ!」

「どうなされたの!?ネリルお姉様!」

「エリル!この人、普通の人なのぉ!」

「なんですってネリルお姉様!」

「し、しかも彼女がいるのよ!」

「えぇ!?ではこの人は一体何をしにメイドカフェに!?」

「そう!そうなのよエリル!この人おかしいわ!だって普通の人なんですもの!」

「普通の人・・・はっ!ということは!大したスタイルでないからとりあえずニーハイソックスはいて作り出しているごまかし絶対領域がこの人の前では‘絶対‘では無くなってしまう!」

「そうよ!ミニスカートはいて太ももをチラ見させておいたってなんとかならない相手なのよ!」

「それはいけないわネリルお姉様!実はカスっていう本質が!本質が見抜かれてしまう!」

「全くその通りだわエリル!『苦笑い』を勝手に『天使の微笑み』には変換してくれないのよこの人!だって普通の人だもの!全然かしづく気も仕える気もなく、『金いいしメイド服着れるしぶりぶりしてりゃあちやほやされるし、自動で金を払うんだろこの豚供は!あっはっはっは!こんな楽なバイトはないぜ!このポジション、ぜってぇゆずらん!』という乙女のひみつを見破ってしまう人間なのよ!だって、だって普通の人だもの!!」

「まぁ!なんてことなの!ではネリルお姉様、この人は、この人間はもしかしたら!」

「そう、断固、排すべき・・・敵よっ!」

「あ、はい。一回ストップで。で、ここでネリルはエプロンの下に隠してある散弾銃を撃って、エリルはガーターベルトに付けてあるアサシンナイフで襲いかかる。と。で、そのシーンは別撮り別アクションでいくので、敵よ!で銃をかまえるとこでカットかかりますんで、よろしくお願いします」

「はーい。了解でーす」





あたしは映画の主演に選ばれた
タイトルは
『メイド三姉妹の憂鬱』
というB級な感じだけれど、
グラビア出身のあたしが
女優へと羽ばたこうとしている。
とか言って、
実はグラビアが好き。
南の島とか行けるし、
笑ってたらいいし、
喋らなくていい。
マネージャーの言う通り
来た仕事は全部やるけれど、
正直、
少しだるい。
けれど、
台本通りに喋るだけだから、
考えて喋る仕事よりは
気が楽にだるい。






「ねぇマネージャー、あたしアクションとか下手だよきっと。」

「あ~、アサ子運動音痴だからねぇ。けど大丈夫よ。アサ子のプロフィールに心臓病だって書いておいたから、カントクだって解ってるはずよ」

「え、あたし心臓病なの!?」

「プロフィール上はね。」

「あそっか。やるじゃんマネージャー。これであたしは激しく動くと死ぬっていう言い訳ができるのね」

「そうよアサ子、可憐よ。病弱と薄幸は美人の条件よ」

「うそやだ。なんかあたし凄いじゃん」

「そうよ。けど、病弱とデカケツって相性が良くないから出来るだけ強調しちゃ駄目よ。そのかわり、薄幸と巨乳は相性抜群だからそういう現場の時は出していいから。わかった?」

「薄幸と巨乳はいいの?」

「そう。巨乳の女ってその巨乳のせいでたいがい変な男に引っかかって不幸になるのよ。風俗いったり、AV出たり」

「そうなの?なんか偏見が凄くない?」

「凄くない!!巨乳は全員男無しじゃ生きていけないバカで、ろくな男が寄ってこないの!そういうもんなの!!わかった!?」

「マネージャーがAカップだってことと何か関係あったりするの?その偏見」

「偏見じゃねぇっつってんだろ」

「痛い!分かった!偏見じゃない!だから、ピンポイントで乳首をつねらないで!!取れる!!」 

「バカそうな胸しやがって。偏見じゃないって十回言え」

「言う!言うから乳首やめて!!偏見じゃない偏見じゃない偏見じゃない偏見じゃない…」

「あの、盛り上がってるとこすみません。アサ子さん、ちょっと、今いいですか?」

「え?あ、何?カオリちゃん」

「なんかアタシこのシーンのこのセリフ自信無くって・・・で、もしNG出したらどうしようと思うとさらに緊張してきちゃって」

「あ~。そっか。こういうの初めて?」

「はい、一応演技のレッスンとか受けてるんですけど・・・」

「大丈夫だよ。生放送ってわけじゃないんだから何回間違ってもいいんだから」

「そうなんですか?けど、なんか不安で」

「大丈夫大丈夫!あたしなんか旅館のレポーターやって、十ヶ所くらいから出禁になってるけど、こうして生きてるし」

「あーっ、そういえばアサ子さん有名ですもんね!露天風呂のレポートやって、『わぁ!すごぉい!見てくださいこの汚っねぇ景色!』って言ったのグラビア界で伝説ですよ!」

「あ、そうなの?なにそれ。そっか、とにかく!そんな感じだって大丈夫なんだからカオリちゃんなら絶対大丈夫だよ!」

「すいません2人ちょっといいですか?」

「あ、なんですか助監督」

「えっと、この後なんですが、ネリル散弾銃いって、エリルナイフやって、男よけてノビノビのゴムパンチで2人ブッ飛ぶ、ここまでいいですよね。で、エリルネリル、ピンチ、男が二人に襲いかかったところに、長女のドリル登場、目潰し、金蹴り、指折り、爪はがしの残虐コンボ、で、男撃退、が、男逆上、レンタルしたトラックで歩行者天国暴走、3人に向かって突進、がしかし、持病のてんかんの発作が起きて、3人助かる、男、トラックと一緒に石丸電気のビルに突っ込んで崩壊して、男、ジエンド。ここまでもいいですよね?はい。で、この後、ここからがちょっと変更でして、3人ラストで歩行者天国を颯爽と歩くシーンで、監督からスクール水着で歩いて欲しいというアイディアが出ましてですね。できますよね?」

「できます!全然平気です!アタシ着慣れてるんで!スク水」

「えちょっと、カオリちゃん待って。なんでそんなやる気?」

「だって可愛くないですか?スク水。アタシ超好きなんです!」

「や、そっか、え?そうなの?あれ?あたしがおかしいの?ねぇ、マネージャーはどう?これ、着る流れ普通?」

「いや、意味わかんないけど?なんでスク水?さっきまでメイド服着てたのに、トラック避けてわざわざ着替えるってこと?この3人の姉妹たち。神経おかしくね?」

「そう!それ!だよね?あたし変じゃないよね」

「えぇぇぇ。スク水可愛いのに~」

「カオリちゃん、あたしだってスク水くらいグラビアで着慣れてるし、着たくないって訳じゃないんだけど、その、意味わかんないじゃん?いきなりスク水って」

「そんなこと言ったらアタシ、何もしてない客に散弾銃撃つんですよ。いきなり」

「いや、まぁねぇ、この映画ちょっとアレだけどね。そう言われると」

「そうですよ。だから元々ルールなんか無い映画ですし、スク水可愛いし、いいじゃないですか」

「あのさ、マネージャーとして聞いていい?なんでそんなに着る方向でいきたいの?可愛いからってそんだけ?」

「えー?言っちゃっていいんですかねこれ。あの、ドリル役の権田さんって、グラビアの中でも『ぶよ』じゃないですか?だから、スク水なんか着たら絶対醜いんですよぉ、だって『ぶよ』ですもん。権田さん。そしたら人気落ちますよね?ざまぁなくないですか?それって。その点、アタシはやせ型だからラインが出ていい感じだし、アサ子さんだって、はみパイ、きゃっ。って感じで良い感じになりますよね?そしたら勝ちじゃないですかほとんど」

「うわぁ、なんか真っ黒。っていうか、権田さんって同じ事務所の先輩じゃない?いいの?そんな事言って」

「本当なら、本当にトラックに当たっちゃえって感じですよぉ。近いと余計目ざわりですよね先輩って。けど、アタシのマネージャーがどうせあと一年で消えるから待っとけって言うんでしょうがなく待ってる感じです。っていうか、早く席あけろって感じですけど。あ~あ~。デキ婚とかしねぇかなぁ~あの女」

「肌、真っ白なのに。凄いね。カオリちゃんて。」





話しながら
この子、
早く女優になって遠くに行ってくれないかな
と心底思った。
こんなのとライバル争いしたら
死ねる。
毒とか平気で盛りそうだし、
ビキニのブラの裏に
ハバネロとか塗りそう。
そしたら
あたしの乳首取れるんじゃね?
それか、
すっごくダークな色合いになるんじゃね?
とにかく、
この無邪気な悪意のかたまりとは
すぐ、
距離を取りたかった。



つづく。
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