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「お前はここで死ぬのよ!」

「出たな色情狂!汚いケツを出しやがって!この私がお仕置きしてやるわよ!」

「おーほっほ!お前にこの私が倒せるものか!」

「黙れケツにきび!その無数に腫れたケツにきびを一つ一つ潰してあげるわ!たるんだケツに出来た汚い汚いケツにきび!セルライトの集合体のようなケツめ!叩いてやろうか!鞭打ちしてくれようか!腐った肉まんめ!よくそんな格好で出てきたな豚のケツ!いくぞ!くらえ!正義の鉄拳っ・・・」




「カーーーット!!カットカット!!」



なんで??
と思った時にはPの怒鳴り声がして、
その視線は直進であたしに向かっていた。
演技が悪かったのかな。
と思うけれど、
あたしなりに迫真の出来だったと思う。

「豚のケツ!の後、象のケツ カバのケツ 貴様のケツ!見わけがつかないわ!トイレの後くらい拭きなさい!いくぞ!くらえ!・・・だろ!?どんだけセリフを飛ばすつもりだお前は!!」

あ、そっか。
昨日マネージャーと沢山練習したのに・・・
っていうか長くねぇ?
どんだけケツケツ言うのこれ。
てかなに、
どんだけ汚いケツした敵と戦うのあたし。
こんなに悪口を言う正義ってあるか?
口汚いヒロインっている?
なんかキャラも途中でブレるし、
この台本書いたの誰?
これが新しいヒロイン像っていうなら、
「絶対センス無ぇっ!!」



「はぁ?なんだお前」

「え、何ですか?P・・・」

「お前、今、絶対センス無ぇって言っただろ?」

「言ってません!」

「いや、言ったから。でっけぇ声で叫んだか

「叫んでません!」

「いい、いいのそれは。叫んだのお前、すっごく大声で。つーか何?ヤバイ奴なのお前?何で食い気味に『言ってません!』って言い切れるの?この前もそうだったけど今日もなんかぶつぶつ言ってたな。あれ、なんだ?今回はちょっと聞こえたぞ?キャラがぶれるとか言ってただろ」

「それは・・・思ってたけど、言ってはいません!」

「なんだ?お前、思ってることぶつぶつ言っちゃう奴なの?大丈夫か?頭おかしいんじゃねーか?」

「P!あの、P!ちょっといいですかP!アサ子は頭がおかしいわけじゃないんです!それは言い過ぎですP!ちょっと新しいっていうか、現代っ子っていうか、思ったことが相手に伝わっちゃう。っていうだけなんです!」

「サトラレか!じゃあこいつはサトラレか!おい!バカマネージャー!なんだそりゃ、バーカ!バーカ!現代っ子って全部こんなことになってんのか?バイオハザードか!怖ぇよ!バーカ!っていうかお前、またポップに俺のこと『P』っつってるけど名前くらい覚えてきたんだろうな」

「もちろんです!中島P!!」

「っじゃねぇーしっ!誰だ中島って!」

「アハハ!そうだよマネージャー。中島じゃあ、磯野と野球に行っちゃうんじゃね?」

「たしかに!ウケるそれ!!ちょっと『おーい、磯野ぉ~野球しようぜぇ』って言ってもらっていっすか?ちょっといっすか?」

「あああっ!うるっせぇ!くそ腹立つなお前ら!ちくしょう!ちくしょう!あーくそ!だからなんでむかつくイントネーションになんだよ!くそっ!くそっ!なんでだいたいお前達が俺の現場に居るんだ!俺はキャスティングしてねーぞ!お前らなんか!」

「あ、あのそれは、予定してた女優さんがコケたんで、代わりというか・・・」

「はぁ?おいおいAPさんよぉ。なんでそれを事前に俺に報告しとかねーんだよ!」

「すいませんっ!それは、こっちのミスですっ!」

「ぶっ殺すぞ!おぉ??分かってんだよんなこと!おめぇのミスじゃなきゃ誰のミスだバカヤロウ!くそ!くそ!」

「あのぅ・・・P、一回、甘い物でも取りませんか?」

「はぁ??」

「そんなにカリカリしてもアレなんで。糖分とか取りましょうよ」

「おい。くそボケマネージャー。覚えておけ。俺は糖尿だ。現役バリバリの。甘い物なんか食ったら死ぬくらいの根っからの糖尿だ。わっかたか?お前の手帳に俺の名前より先に書いておけ。そして赤線を引け。とても大事なことだ。分かったな?そして、俺がこんなにカリカリしてるのは、おい。お前達のせいだ。」

「すいませんでした!覚えておきます!」

「話、もどしていっすか?」

「お前が言うな。三流でかパイタレント。俺ぁ、今キレる寸前だからな。口の聞き方に気をつけろよ」

「うす。さーせん。で、あの、何の為にこんなにケツの悪口を言うんすか?これ」

「ああ?汚いケツしてるからだろ。見ろよ。あいつのケツ。汚ぇだろ?汚ぇんだこれが。だって、オーディションしたから。汚いケツ探して。俺はね、そのくらいこのドラマで一発当てるつもりなんだよ。気合入ってんだよ」

「いや、そういうんじゃなくて、しつこくないですか?これ」

「しつこくねーよ。こんくらい言わないと視聴者に伝わんねーだろ」

「え~。そうですかね。マネージャーどう?」

「しつこいね」

「だよね!?超ぉしつこいよね?」

「ねちねち超ぉしつこい。こういう人って嫌われると思う」

「だよね?だよね!なんかいるよねこういう奴。いっこ人の欠点見つけるとずーっと言ってる奴。うわぁ~うぜぇ~」

「あ~、いるいるそういうゴミ」

「俺のこと言ってんのかおまえら ああ!?」

「あの~、P。いいっすか?」
 
「なんだバカAP」

「色情狂役の瀬戸さんが、帰るって言ってるんですけど・・・」

「は?なんで?」

「ケツが汚いって、そんな理由で選ばれて、こんな役で出たくないって言ってて・・・」

「はぁ?面倒くせーなぁ。っち。まぁいいや。俺が行って説得してくるわ。じゃあ、お前たちは台詞でも確認していてNG出さないようにしとけ!わかったか!」







その後、
Pの、『こんなに凄い汚いケツを持った女優なんて今の芸能界にいない。あなたは宝だ』
という一言で瀬戸さんをブチぎれさせ、
Pはその殺し文句で誰を説得出来ると思ったのか謎が残った。
そしてこのドラマは一回も放送されずにお蔵入りになった。
あたしは「主演ドラマをやることになった」と
言っちゃった友達たちからの電話を二ヶ月拒否し続けた。