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「あ~、どうもぉ、はじめましてぇ、えー、え、本日インタビューさせていただく、個装社の梶原と、こちら撮影を担当する斎藤と申しますぅ。ええ、え、今日は個人的に大好きなアサ子さんにインタビュー出来るということで、若干テンションが上がっちゃってるんですけども、ええ、え、んふふふふ、ええ、どうぞよろしくお願いしますぅ」
 
 「あ、はい。どうぞよろしくお願いします」
 
「これぇ~、あの、アサ子さんに、お土産なんですが、ええ」
 
「あぁ!これ!もしかして!」
 
「え!ご存知です!?今スイーツ女子の間で話題の!」
 
「ですよね!?」
 
「ドラ屋のどら焼きですぅ!」
 
「わぁ~!思ってたのと違~うっ!え?あ、どら焼き?どら焼きぃ?なんで?あ、いや、あぁ、ですよね。あの!いや、好きです!あたし!どら焼き!好きっす!最高っす!どら焼きしか食わねぇっす!!」
 
「え、好きです?ほんとに?あれ。なんで私がこんな複雑な気持ちになるんだろう」
 
「えっと、あ、食っていいっすか!あたし、どら焼き好きなんで!パねぇ!マジパねぇ!」
 
「え、あ、あぁ…ど、どうぞ…」
 
 
 
 
 
てっきりカスタードプリンだと
確信していたあたしは
どら焼きだったということに
分かり易くがっかりしてしまった。
この失礼を取り返そうと
 
うめぇーっ うんめぇ、まじうめぇ!

どら焼きを二つ一気に頬張って、
 
さらに三つめに手をかけたところで
 
 
「やめて!見苦しい!や、いえ、ええ、あの、大丈夫ですから!ええ、そこまでしていただかなくて大丈夫ですから!気持ち伝わりましたから!ええ、ええ」
 
と、
梶原さんにとめられた。
っていうか、
スイーツ女子って何?
そんな名前の女子たちに人気なのがどら焼き?
おかしくね?
今、ジャストナウ、現在、
人気なのがどら焼きなの?
何周してどら焼きに帰ってきたの?
どーせ後で食べるのに。
どら焼き。
おばちゃんになったら食べるのに。
どら焼き。
 
 
 
 
「はい。では、えっとですね。今、ノリにノってるアサ子さんですがぁ、ええ、先日、弊社の雑誌『アン・ナン』のアンケートで、今、最もイカれてるお笑い芸人部門でダントツの一位を獲得されたんですが!いかがでしょうか?」
 
「は。え。なんすか?」
 
「ですから、ええ、今最もイカれてるお笑い芸人部門で、一位だったんですよアサ子さん!」
 
「はい。え?感想ですか?言うんですか?感想」
 
「ええ、是非是非」
 
「ぶっ殺したいです」
 
「は。え。なんすか?」
 
「え。は?ぶっ殺したいです」
 
「え、ええ、え?なんで?」
 
「え、逆になんで?」
 
「一位ですよ?」
 
「はい」
 
「お笑い芸人を押しのけての受賞ですよ!?快挙!今まで一人も居ないんですよ?そんな人」
 
「あ、ああ、あの、いいですか。これ。全然欲しくないです。なんていうか、さっきのどら焼き並に全然欲しくないし嬉しくない」
 
「え?嫌味言った?ええ、え?なんです?怒ってます?アサ子さん」
 
「イカれてるんですよね?あたし。あの、え?あたし間違ってるのかな。あなた一番頭がイカれてます!って言われて、「やったぁー!」ってなります?え、やっぱ間違ってるのかな。これ。「やったぁー!」ってなった方がいいですか?これ。いや、これ、あの、これでやったぁー!ってなったら、本当にイカれてるっていうか、頭、故障しちゃってるって事になりませんか?」
 
「あの、ええ、そうですね、ええ、あの、確認が一点、よろしいです?」
 
「はい」
 
「…イカれてないって思ってます?ご自分のこと」
 
「は。え?」
 
「あ~、そうなんですね。あ~、はいはい、わっかりましたぁ、あ~そっかそっか。じゃあ腹立ちますよねぇ」
 
「やだ。この感じ何?やだやだ。やめて。なんか嫌!この流れ、駄目な気がする!」
 
「話、進めちゃっていいですかね?一応、一位取られたということで、花束、持ってきてるので受け取っていただくついでに、写真、一いただきますね」
 
「やだ!受け取れない!受け取ったら駄目!嫌です!なんか嫌です!だってほら、めでたくない!」
 
「そんなことおっしゃらずに、ええ、ね?ほら、薔薇ですよ?こんなに沢山、薔薇、ね?薔薇」
 
「いや、薔薇、嬉しくない薔薇!」
 
「とりあえずほら、これ持ってください!これ!これこれこれ!」
 
「痛い!トゲ!薔薇!トゲ!」
 
「なんでよ!薔薇ですよ!ええ、薔薇!こんなに!気持ちですから!気持ち!ね?薔薇の気持ち!!」
 
 
 
無理矢理持たされて、
写真を撮られた。
軽くレイプされた気分。
っていうか、この人、
おかしい。
絶対頭がおかしい。この女。
イカれてるの、
あたしじゃない気がする。
 
 
 
「え~っと。アサ子さんに喜んで受け取ってもらって、嬉しいです。私。用意した甲斐がありましたぁ。ええ、ええ」 



おおおお。
これを喜んで受け取った事にしたよ。この女。
凄い。
イカれてる。
わああ。
勝てない。これ絶対勝てない。



「で、ですね。あの~、読者からの質問なんですが、ええ、今、大変お忙しいと思うんですが、休日はアサ子さんは何をされて過ごしているんですか?」

「え?あぁ、休日ですか、えっと、ショッピングとかですねぇ」

「ショッピング??? えっと。 ん~。 えーっと。呼吸ってされます?」

「は?え?」

「呼吸です。呼吸。されますよね?普通」

「え?あ、はい・・・します・・・ねぇ」

「ですよねぇ!ええ、ええ。じゃあ、あの、休日もします?呼吸」

「いや、え?あぁ、はい。してます・・・」

「えええええ!そうなんですかぁ!休日にすることは『呼吸』!?やっぱ違いますよねぇアサ子さんは!すごーい!さすが今最もイカれてる芸人!」

「は?ん。なんだ?なにそれ」

「では、次の読者からの質問です。ええ」

「は。何。これどうなるんですか。ちょっと待って下さい」

「えーっとですね。アサ子さんは完璧なプロポーションですが、そのスタイルを維持する為に何かしてることはありますか?ということなんですが。何か特別な事してますかね?」

「え?なんて?ちょっとさっきのが解決してないんですけど・・・」

「えっと、何か と・く・べ・つ な事、してます?」 (と・く・べ・つ の一音ずつ首を斜めに振りながら目をひんむいてアサ子の顔に近づける)

「え、いや、そこまで特別な事は何も、あの、普通のグラビアの子なら誰でもするような事を・・・」

「ええええええ!!何もしていない!?嘘ぉ!?さっすが!さっすうううううがアサ子さんですね!!天然で、え?天然でそのスタイル!?うわー。すごーい。すごいうぜぇ~」

「ちょっと、本当にちょっと!嫌だ!絶対に損する!あたし!なにこれ!やだ!ねぇ!梶原さん!嫌だ!これ!」

「おい」






声の方を向くと、
今日は別々だったはずの
マネージャーがドアの横に立っていた。



「あ!なんであんたがここに!?」

「おい、おい、おい、梶原ぁぁぁぁ。ハメたな?この私を。なぁ」

「はっ!なんのこと?」

「同じ日に個装社から二件仕事が入るのは珍らしいと思っていたら、梶原ぁ、なぁ?お前かぁ。なぁ?」

「何?何言ってんの」

「アサ子から私をひっぺがしたかったんだなぁ、なぁ?そうだろ。おい」

「だから何が言いたいの?話が見えないけど」

「アサ子を、潰したかったのか?どうしたかったんだ?私が居たら邪魔だよねぇ?梶原ぁ。お前、まだ私の事恨んでるんだねぇ。へぇ。で、アサ子を潰しに掛かったんだぁ・・・へぇ~」

「はぁ?何?妄想ならよそでやってよ」

「アサ子ぉ!なんか変な事言われた!?」

「え、っていうか、なんか全部変だった・・・」

「ぶっ殺すぞ梶原ぁ!」

「証拠はあんのか!ええええええ!?おい!お前のタレント、アサ子つったっけ?そいつ頭おかしいんだろ?信用できんのかよ!ええ?そんな奴が言う事をよぉ!私は変なことなんかして無ぇよ!証拠はあんのかよぉ!」

「証拠ぉ?? 無ぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇよぉ! カスぅ!いらねーんだよそんな物ぁ!アサ子が!アサ子がぁ!」




嫌がってんでしょーーーがっ!!




そう言って
マネージャーは
梶原さんを殴った。
アニメ?
ってくらい吹っ飛んだ梶原さんは、
斎藤さんの機材をなぎ倒した。
それにキレた斎藤さんは梶原さんを地味に蹴った。
その日の事は個装社の雑誌には載らなかったけれど、
週刊近況にリークされたらしく、
暴力マネージャーとして書かれ、
三ヶ月の謹慎をした。

そして、
謹慎が明けて、
二人で仕事を再開しだしたら、
危険なタレントとマネージャーとして
有名ですよと、
カオリちゃんがそっと教えてくれた。